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2025.9.18
高光産業株式会社
妹尾八郎です。
昨日までは朝廷の関係の深い吉田家の話しでした。
今日は吉田家と関係がある吉田神社の話に進みます、、、。
京都市左京区にある吉田神社は、
古くは平安京の鎮守として創建された神社ですが、
室町時代に至って吉田兼倶が神道を体系化したことで、
日本の宗教史において特別な存在となりました。
特に境内に建てられた斎場所大元宮は、
天地開闢以来の八百万の神々を一堂に祀るという前代未聞の社殿であり、
吉田神道の思想を象徴する建物でした。
大元宮は文明16年(1484年)、兼倶によって創建され、
八角形を基調とした独特の構造を持ち、
内部には神々を階層的に配置して宇宙そのものを表現する設計が施されました。
通常の神社が一柱もしくは数柱の神を祀るのに対し、
大元宮ではすべての神を祀ることで、
ここに参拝すれば全国の神々へ拝礼したのと同じ功徳が得られると説かれました。
これは「神々の縮図」ともいえる発想であり、
吉田神道が「宇宙=神殿」という壮大な世界観を持っていたことを示しています。
吉田兼倶がこのような試みを行った背景には、
当時の神道が各地でバラバラに信仰され、
統一的な理論や教義を欠いていたことがあります。
戦国時代の混乱の中で、宗教秩序の整理は朝廷や有力者にとっても望まれ、
兼倶は神道を学問的に体系化し、大元宮をその象徴として打ち立てました。
彼は「大元宮を拠点とする吉田神道こそ正しい神道である」と強く主張し、
その権威をもって全国の神社を統括する立場を築いていったのです。
こうして吉田家は「神道裁許状」と呼ばれる免許状を発行し、
全国の神職が正式に名乗るためには
吉田家から許可を受ける必要があるという仕組みを確立しました。
地方の村社であっても、
吉田家の裁許状を掲げることで公認の神社と見なされ、
地域社会における権威を保証されたのです。
この構図こそが、いわゆる「吉田神道系」と呼ばれる神社の実態であり、
専用の新しい神社を建てたわけではなく、
既存の神社を自らの影響下に組み入れたものでした。
吉田神社と大元宮はその中心拠点であり、
京都にある北野天満宮や八坂神社など有力な神社もまた、
吉田家の影響下で祭祀が営まれました。
こうして吉田神道は全国に広まり、
江戸時代には
「吉田家の免許を受けていない神社は正式な神社とは言えない」
とまでされるほどでした。
大元宮の思想はただの信仰統制にとどまらず、
宇宙的秩序を神殿に反映させようという壮大な試みでした。
中心に根源神を祀り、その周囲に天神地祇を配置し、
さらに外周に地方の神々を並べるという構造は、
神々の序列と宇宙生成の秩序を可視化したものであり、
神道を一種の世界宗教として理論化しようとする姿勢が感じられます。
今日、大元宮は度重なる火災で焼失し再建を繰り返していますが、
その思想と構造は今も受け継がれ、
八百万の神々を一堂に祀る独自の雰囲気を体感できる場所として残されています。
明治維新後、国家神道体制が整備される中で吉田家の権限は失われました。
明治政府は全国の神社を神祇官の管轄下におき、祭祀作法を統一しました。
ここで定められたのが、
現在広く行われている「二礼二拍手一礼」という参拝作法です。
実はこの形式は古来から全国一律に行われていたわけではなく、
地方ごとや神社ごとに異なる作法がありました。
吉田神道の影響で祈祷や祭式が整理されつつあったものの、
完全に統一されていたわけではなかったのです。
明治政府は神道を「国家の宗祀」と位置づけるため、
神社参拝の作法を全国で統一し、教育勅語や学校教育と合わせて国民に徹底させました。
したがって「二礼二拍手一礼」は明治以降の制度的な定着であり、
吉田神道の直接の決定ではありません。
ただし、吉田神道がそれ以前に全国の神社を統制していた経験や思想が、
こうした国家的統一を下支えしたのは間違いないでしょう。
つまり、吉田神道は「全国神社の免許権」を通じて祭祀統制の基盤を築き、
その延長線上に明治以降の国家神道体制が形成されたといえます。
今日、吉田神道という名前を前面に出す神社はほとんど存在しませんが、
京都の吉田神社と大元宮は今なおその思想の象徴として残り、
訪れる人に独特の世界観を伝えています。
大元宮の社殿を前にすれば、
かつて吉田神道が目指した「神々を一つにまとめ、宇宙秩序を神殿に表す」
という壮大な理想の片鱗を感じることができるでしょう。
吉田神道の歴史を辿ることは、単に一つの神社を知るにとどまらず、
日本の宗教がどのように体系化され、
政治や社会とどのように結びついてきたかを理解する大切な手がかりとなります。
そしてその中心に立ち続けてきたのが、京都の吉田神社であり、
八百万の神々を一堂に祀った大元宮なのです。
京都に行かれたら是非一度 参拝してください