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2025.10.11
高光産業株式会社
妹尾八郎です。
昨日までは 明治時代の童話作家の話しでした。
その中の 金太郎について今日は話が進みます、、、。
私たちがよく知っている金太郎は、赤い腹掛けをつけて熊と相撲をとり、
山で動物たちと遊ぶ、たくましい子どもの姿です。
子どもの日になると金太郎人形や幟が飾られ、
健康で強い子どもに育ってほしいという願いが込められています。
しかし、この金太郎という少年は、実は空想の人物ではなく、
平安時代に実在した「坂田金時」という武士がモデルになっているのです。
そして、その実在の人物がどのようにして“物語の英雄”になっていったのかには、
日本文学の流れと庶民の願いが深く関わっています。
坂田金時は、平安時代中期の人物で、源頼光に仕えた四天王の一人でした。
頼光は鬼退治で有名な武将で、部下には渡辺綱、碓井貞光、卜部季武
といった勇士が名を連ねます。
その中でも金時は怪力無双の武士として知られ、
特に「大江山の酒呑童子退治」の物語で大きく名を残しました。
平安時代末期に成立した説話集『今昔物語集』には、
頼光とその家臣たちが鬼を討つ話があり、
その中に「坂田公時」という名が記されています。
これが、文献に登場する最も古い“金時”の姿です。
つまり、金太郎のルーツは平安末期の記録にまで遡るのです。
『今昔物語集』では、金時は「頼光の忠実な家臣」として登場します。
物語は都の鬼退治や怪異退治を中心に描かれ、
彼の子ども時代や山での生活には触れられていません。
けれども、そこにはすでに
「力が強く、正義感のある勇士」というイメージが示されています。
つまり、金太郎という“英雄の原型”は、この『今昔物語集』の中で生まれたのです。
時代が下り、室町時代になると、
この坂田金時をもとにした物語が庶民の間で語り継がれ、
やがて『御伽草子』の中に「金太郎」という題名でまとめられます。
『御伽草子』は、庶民の読み物として流行した短編物語集で、
現代でいえば絵本や民話集のような存在でした。
ここで初めて、私たちがよく知る“山で熊と相撲をとる金太郎”が登場します。
足柄山に母と暮らし、熊や猿、鹿などと遊びながらたくましく成長する少年。
力も優しさもあり、困っている動物を助け、自然と調和して生きる姿が描かれています。
やがてその評判を聞きつけた源頼光が、山へ狩りに訪れた際に金太郎と出会い、
その怪力と素直な心に感銘を受けて家来に迎え入れる──という筋書きが、
『御伽草子・金太郎』の中心です。
ここに、
『今昔物語集』の「武勇の金時」と、『御伽草子』の「純真な金太郎」とが結びつきます。
つまり、史実の坂田金時という武士が、
室町の庶民文学の中で“理想の子ども像”へと再構成されたのです。
この再構成の背景には、当時の社会情勢がありました。
戦乱や飢饉が続いた時代、
人々は「力が強く、心の優しい子どもが成長し、世の中を救ってくれる」
という希望を物語に託しました。
だからこそ、金太郎の物語は単なる武勇伝ではなく、
庶民の願いが込められた“福徳の象徴”になっていったのです。
さらに興味深いのは、金太郎の母親の存在です。
『御伽草子』では「八重桐」という女性で、彼女は山に住む不思議な力を持つ女性、
つまり山姥として描かれています。
山姥は山の精霊のような存在で、
時に人を食う恐ろしいものとしても語られますが、
金太郎の物語では“自然の力を宿す母”として登場します。
山の神のような存在から生まれた子ども──
つまり金太郎は、人間と自然の調和を象徴する存在でもありました。
日本人の自然信仰の精神が、この親子の物語の根底に流れているのです。
そして、坂田金時が都で活躍した後の物語は、
『平家物語』や『源平盛衰記』、『大江山絵詞』
などの軍記物・絵巻物に描かれていきます。
鬼を討つ頼光四天王の中でも、金時は力の象徴として描かれ、
武士の理想像として尊ばれました。
平安の宮廷文学から離れ、鎌倉・室町と武家の時代に移るにつれて、
彼は「正義を貫く武人」として民衆の心に根を下ろしていったのです。
こうして見ると、金太郎というキャラクターは、
三つの段階で形を変えながら伝わってきたことが分かります。
第一段階は、『今昔物語集』に記された「実在の武士・坂田金時」。
第二段階は、『御伽草子』で描かれた「山の子・金太郎」。
第三段階は、江戸時代に庶民の信仰と結びつき、
「子どもの守り神・金太郎」へと変化した段階です。
江戸の町では、端午の節句に金太郎人形を飾り、
子どもが強く、正直に育つよう祈る風習が定着しました。
つまり、金太郎は“日本人が時代ごとに求めた理想像”の集大成なのです。
平安時代の武勇と忠義を伝えた坂田金時。
室町時代に庶民が夢見た純真無垢な山の子・金太郎。
そして江戸時代に子どもの守り神となった金太郎。
そのすべてが、ひとりの人物の名のもとに重なり合っています。
文学の中で、史実の武士が物語の英雄となり、やがて民衆の信仰へと昇華した──
それが金太郎という存在なのです。
今でも足柄山のふもと、神奈川県南足柄市には「金時神社」があり、
坂田金時を祀っています。
参道には熊の像や赤い腹掛けをつけた金太郎像が並び、
古代から現代まで脈々と続く信仰を感じさせます。
彼の物語は、単なる昔話ではなく、
「どんな境遇でも真っ直ぐに育ち、正義を貫く心が大切」
という普遍の教えを伝えているのです。
平安の記録に名を刻み、御伽草子で物語となり、江戸で信仰となった金太郎。
その姿は、千年の時を超えて今も私たちの心の中で輝き続けています。