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社長&顧問ブログ

2025.10.25

運慶

高光産業株式会社

妹尾八郎です。

 

昨日までは明治大学の話しでした

 

今日は 東京の地下鉄のポスターを見て感じた話に進みます、、。

 

運慶展のポスターを見かけて、

ふと「そもそも運慶とは誰なのだろう」と思われた方も多いのではないでしょうか。

 

運慶は平安時代の終わりから鎌倉時代の初めにかけて活躍した日本を代表する仏師で、

日本彫刻史における大きな転換点を作った人物です。

 

従来の仏像は、貴族文化の影響で穏やかで上品な美しさを重んじていましたが、

運慶はそこに力強さや人間らしさを取り入れました。

静かに佇む理想の仏ではなく、まるで息づいているような仏の姿を表現したのです。

 

運慶は奈良の仏師の名門「慶派」に生まれました。

 

父は康慶という著名な仏師で、幼い頃から木と向き合い、

仏像制作を身近に感じながら育ちました。

家業として仏像を作る道に進むことは自然な流れだったともいえますが、

単なる親の跡を継いだだけではありません。

当時の社会の変化が、運慶の創作意欲に火をつけたのです。

 

彼が生きた時代は、平安貴族の時代から武士の時代へと移り変わる激動の時代でした。

平家と源氏の争いが続き、戦乱によって多くの寺院や仏像が焼かれてしまいました。

 

特に平氏による奈良・東大寺や興福寺の焼き討ちは有名で、

当時の人々にとって精神的な支えを失う出来事でした。

 

そんな時代に、人々は新しい祈りの形を求め、再び仏の姿を必要としたのです。

 

つまり、運慶が仏像を作ることになったきっかけの一つには

「荒れた時代の中で、人々の心を救う仏を形にしたい」という思いがありました。

彼の手による仏像は、単なる信仰の対象を超え、人々の希望そのものでした。

 

初期の代表作「大日如来坐像」(奈良・円成寺)は、

その誕生期の運慶の精神をよく表しています。

 

この像は、穏やかでありながら、内側から力があふれ出るような存在感を放っています。

その後、彼は父・康慶の後を継ぎ、

興福寺や東大寺の復興事業など数多くの造仏に関わりました。

 

中でも、東大寺南大門の「金剛力士像」はあまりにも有名です。

阿形像と吽形像の二体は、筋肉の張りや目の光、衣の流れまでが生きているようで、

まさに運慶の芸術の真骨頂といえます。

 

平安時代の仏像が理想の静寂を表していたのに対し、

運慶は現実の人間に宿る力や感情を表そうとしました。

これが、彼が“写実の仏師”と呼ばれる所以です。

 

さらに運慶は「玉眼」という技法を用いました。

これは水晶などで眼球を作り、実際に像の中に埋め込むという革新的な技法で、

まるで仏像がこちらを見つめ返してくるようなリアルさを生み出しました。

その眼差しには、仏の慈悲と人間の感情が一体となった不思議な温かさがあります。

 

運慶が目指したのは、ただの“理想の仏”ではなく“

生きる人間の中に宿る仏の姿”だったのです。

また、運慶の時代は新しい宗派が次々と生まれた時期でもありました。

法然、親鸞、栄西、道元といった宗祖たちが、それぞれの教えを全国に広めていた頃です。

 

人々の信仰が多様化する中で、

仏師たちは新しい信仰の形を視覚的に表現する必要がありました。

 

運慶が手がけた仏像には、そうした“祈りの変化”が見事に表れています。

武士が自らの守護仏として拝んだ「力強い仏像」、

民衆が救いを求めた「慈悲深い菩薩像」、

そして寺院再建の象徴としての「荘厳な如来像」

れらはすべて、時代と人々の心を映す鏡でした。

 

運慶が生涯にわたり手がけた作品の多くは、単なる造形ではなく、時代の祈りそのものです。

 

晩年の代表作「無著・世親立像」(興福寺北円堂)は、

学僧二人の知性と慈悲が見事に表現されており、

木であることを忘れるほどのリアリティと温かみがあります。

ここには、若き日の「力強い仏」から、晩年の「深い人間理解」への変化が見て取れます。

 

東京で運慶展が開かれるたび、多くの人がその仏像の前に立ち、なぜか涙が出るといいます。それは、運慶が作った仏が単なる神聖な存在ではなく、

苦しみや喜びを共に感じる“人間の姿をした仏”だからです。

運慶は、荒れた時代に「生きる意味」を形にした彫刻家だったのです。

 

彼が仏像を作るきっかけとなったのは、

父から受け継いだ技術と使命、戦乱に揺れる時代への祈り、

そして“生きる人の心に寄り添う仏”を作りたいという信念でした。

 

彼の作品は800年を経た今もなお、見る人の心に静かに語りかけてきます。

 

是非運慶展に足を運んでみては如何でしょうか?

高光産業株式会社 公式サイト

https://takamitsu.com/

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