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社長&顧問ブログ

2025.10.26

金剛力士像

高光産業株式会社

妹尾八郎です。

 

昨日までは 運慶の話しでした。

今日も 運慶の話に続きます、、、。

 

金剛力士像は日本の寺院の門に立つ二体一対の仏像で、阿形像と吽形像と呼ばれています。東大寺南大門の像が特に有名で、運慶と快慶によって造られたと伝えられています。

 

まずこの二体には明確な意味があります。

 

阿形像は口を大きく開けており「阿」という音を発しています。

これはサンスクリット語の「a」に由来し、宇宙の始まりや生命の誕生、

すなわち「すべての始まり」を意味します。

 

一方、吽形像は口を閉じて「吽(うん)」という音を表しており、

サンスクリット語の「ūṃ」に通じ「すべての終わり」や「完成・統一」を意味します。

 

つまり阿吽は仏教の世界観における始まりと終わり、生と死、出発と帰結を象徴しており、この二体が並ぶことで宇宙の理を完全に表現しているのです。

 

また阿吽の呼吸という言葉があるように、

この二体の像は互いに調和しながら対を成しており、

人と人との間にも必要な呼吸や心の調和を象徴しているとも言われます。

 

金剛力士像の役割は単に装飾ではなく、

寺院を守る守護神として悪霊や魔を寄せ付けないための存在です。

 

金剛とはダイヤモンドのように硬いものを意味し、仏法を守り抜く力の象徴でもあります。力士とは力のある者を指し、

つまり金剛力士とは「不壊の力で仏法を守る者」という意味になるのです。

 

そのため彼らは筋骨隆々の体を持ち、怒りに満ちた表情で門前に立ち、

邪悪なものが仏の世界に入ることを防いでいます。

この怒りの表情は単なる恐ろしさではなく、

正義の怒りであり、仏の慈悲を守るための威厳を表しているのです。

 

ではなぜ運慶がこの像を作ったのかというと、

それには当時の時代背景が深く関わっています。

 

鎌倉時代初期、日本は平安の貴族社会から武士の時代へと大きく変わろうとしていました。

 

平家の滅亡とともに多くの寺院が焼かれ、東大寺も例外ではありませんでした。

焼失した南大門の再建は国家的な一大事業であり、

その守護として強大な力を象徴する像が必要とされたのです。

そこで選ばれたのが運慶でした。

 

運慶は奈良仏師の慶派に属し、写実的で生命力あふれる仏像を得意としていました。

彼の手による仏像はそれまでの平安時代の穏やかで理想化された姿とは異なり、

血の通った人間味や動きを感じさせるものでした。

 

東大寺南大門の金剛力士像もまさにその代表です。

阿形は全身の筋肉を隆起させ、怒りを爆発させるように叫び、

吽形は口を閉じて力を内に秘めながらも全身に気迫をみなぎらせています。

 

まるで息づいているかのようなその姿は、木造とは思えないほどの迫力を放っています。

 

この像はわずか七十日ほどで完成したと伝わり、

寄木造という複数の木を組み合わせる技法によって多くの仏師が協力して制作しました。

運慶と快慶を中心に総勢二十人以上が関わり、夜を徹してノミをふるったと言われています。それは単なる宗教的行為ではなく、戦乱の世における祈りであり、

「もう一度平和と信仰の光を取り戻したい」という願いが込められていました。

 

運慶はこの金剛力士像に、

仏法を守る強さと人間の中にある勇気や覚悟を重ね合わせたのです。

 

彼が見つめたのは単なる神仏の理想像ではなく、

生きることに苦しみながらも前に進む人間の姿でした。

 

だからこそ、阿形の叫びは生きる者の叫びであり、

吽形の沈黙は耐える者の沈黙です。

 

運慶が造りたかったのは、ただの守護神ではなく「人間そのものの力強さ」だったのです。

 

鎌倉という新しい時代にふさわしい現実的で躍動感のある造形は、

多くの人々に新たな信仰の形を示しました。

 

金剛力士像の前に立つと、誰もが圧倒されると同時に、

内なる勇気を奮い立たせられるような感覚を覚えます。

それは千年を経た今でも変わりません。

 

運慶は仏の世界と人の世界をつなぐ境界にこの二体を立たせ、

「外の闇から中の光を守る」という普遍的な使命を与えました。

 

阿形と吽形は始まりと終わり、息を吸うことと吐くこと、

動と静、外と内という相反する二つの力を合わせ持ち、

そこに完全な調和が生まれています。

 

つまりこの像は、宇宙の理法を人間の形にしたものであり、

見る者に心の強さと静けさを教えてくれます。

 

運慶がこの像を作った理由は、仏教を守るためだけでなく、

人々に「生きる力」を示すためでした。

 

怒りの中にも慈悲があり、力の中にも祈りがある。

その両方を抱きしめた金剛力士像は、

鎌倉時代の彫刻の最高峰として今も私たちに語りかけています。

 

寺の門前で阿形と吽形が睨みをきかせているのは、

決して恐ろしいためではなく、

「真実の心でここをくぐりなさい」と静かに告げているのです。運慶の彫る手は、

ただ木を刻むだけでなく、人の魂を刻んでいたのだと思います。

高光産業株式会社 公式サイト

https://takamitsu.com/

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